帯に短し襷に長し

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市街地のんか

市街地から川沿いに真っ直ぐ歩いていくと、どことなく異様な雰囲気を漂わしている館がある。それは、地元住民からも疎ましく思われており、誰が住んでるとか、何の為に建てられたのか、全く分からない。外見は、二階建ての洋館で、蔓が壁を縦横無尽に駆け巡って、鬱蒼としている。ただ、ネームプレートやポストがあった痕跡が全く無い。家として住むには不可思議極まりない。
そんなこんなで奇遇にも私、仕事が無いもので、暇な時間は腐る程あるので、今日はこの館の観覧ツアーでも執り行おうと画策した。

泡を吹いて泳ぐ鯉と併走し、うなだれる程の熱を受けて鉄板で熱せられるような不快感を覚える。この時期の不快要素は徐々に鉛の様にへばりつき私の体を蝕んでいく、ネチっこい性格をしている。こんな苦しい思いをするなら、鯉の泡となっていっそのこと消えてしまおうか、なんて空想を頭の中でグルグル回しながら、歩を進める。
途中に自動販売機が点在しており、市街地に眠る数少ないオアシスとして機能している。複雑な回線駆け巡るこのコンクリートジャングルのマスコットみたいなものだ。
私は、自動販売機に120イェンを飲み込ませ、前面に散らばったボタンの中の一つを押し、缶ジュースを吐き出させる。それには、唾液とも見えなくもない水滴が既に滴り落ちる程に溜まっていた。
私は、背筋が凍てつくような嫌悪感を抱いたが、これは数少ないマネーを食わせて出させた貴重な資源なのだから、最早有効活用するしかないと自らを納得させ、缶の口をガスの勢い良く飛びだす快感と共にこじ開けた。そのまま、缶の中の液体を自らの体に投入する。すると、どういうことだろうか。体の隅々に液体が浸食し、無理やりこの使い物にならない体を動かしてやろうと暗示してくる。私は、その漠然とした無意識に導かれ、再び前進せざるを得なくなった。

コンクリートはいつの間にかコタイからエキタイに変わり、マーブル状に模様を替えた。さっき道端に転がってたビー玉も、今頃メンコに変わってるだろう。草や花は、息を切らして日陰へ日陰へと移動を始めている。
あんまり暑いもんだから、頭が蒸発しそうになるから、奴らの気持ちが良くわかる。

そろそろかな、と地面から前へ視線を移すと、それは圧倒的な存在感と共にそびえ立っていた。
恐る恐る、敷地内に侵入する。地雷や警備システム等は仕掛けられていないらしく、足を踏み入れても何も起こらなかった。目の前には無限に伸びまくる緑と赤色の煉瓦の壁と灰色のドア。もうここまで来たんだから引き返せないと意を決してドアをノックした。……応答無し。よし、こういう時は声をかけてあげるんだよな。

「ごめんください」「はーい」

さっきは反応しなかったのに、声をかけた途端、ビーフジャーキーを差し出された犬のが素早く犬小屋から出て来るように、ニコニコと不気味な笑みを浮かべてやってきた。
埃臭く、ほんのり蜜の匂いを漂わせてやってきたのは、緑色の長髪の若い乙女であった。いきなりのサプライズに、天地がひっくり返ったような心地がした。
中は、ボロボロになった木のフローリングと、無機質にさらけ出されたコンクリートの壁。部屋は見たところ暗くてどこにあるかは分からない。だいたいこういう家は、廊下が長すぎてなかなか部屋に着けないってのが多い。おそらくそういう類の家なのだろう。
乙女がこっちにおいでと手招きする。私は昔話に良く出て来る、一晩泊まった所が荒れ地だった、みたいな展開になるんじゃないかと少々警戒していたが、まさか現実しそんなことが起こるまいと高を括り、まるで花の匂いに誘われる蜂のように、乙女の行く方へ付いていくことにした。

廊下の壁には、絵画が10m間隔で飾られている。それぞれの絵画には、骸骨、烏、死体等不気味なモノで統一されている。少々背筋に違和感を覚えてたが、こんなもので怖じ気づく私ではないと思い切り目を見開き、気合いを入れた。
乾いた木の擦れる音と、今にも床が抜け落ちそうな浮遊感を楽しんでいるうちに、リビングに着いた。そこには円型のニビ色のテーブル、その上に枯れたチューリップの花、錆びてボロボロになった鉄の椅子三脚がそれぞれ部屋の中で不協和音を奏でていた。リビングの窓から見えるのは、茶色に染まった芝生が一面に広がる庭。この家からもそうだが、時が止まったまま動かない空間みたいな風景が延々と続いている。もしかしたら、管理が面倒で放置していたらこうなったのか?そんな一抹の疑問がふと湧いたので、聞いてみることにした。

「なんで芝生とか、枯れたまま放置してるんですか?」
すると、乙女はこちらにねっとりした視線を送り、
「ここは、何をしても無駄なんです」
そう言い残し、どこかへ行ってしまった。
私は呆気にとられ、椅子を引き、腰を落ち着けることにした。するとテーブルから、まるで繭を突き破る蛾のように、陶製のマグカップが飛び出してきた。その中には、見るからに黒い液体がびっしりと充填されていた。こういう登場した物に、得できるような物は一つも無い。どうせ、中はゴキブリの粉末を溶かしたものなんだろうと鼻であしらいつつも、実際にそういうものがあったら試してみたいという好奇心が存在したのも確かだ。二つの意志を葛藤させた末、恐らく二度と飲めないだろうということで、試しに飲むことにした。
見たところ粘り気があり、微かに土の匂いがする。コップの取っ手をしっかり握り締め、口の中に液体を含む。意外に辺鄙な味ではなく、コーヒーのような苦味がした。若干果糖に近い甘味も感じた。これならもう一杯行けそうだぁ。ってあえ?えうあうあっえいあ。私はそのまま、テーブルに身を委ねたまま硬直してしまった。
ふとした瞬間、目を覚ます。辺りはもう暗闇に包まれていた。頼りにしていたテーブルや椅子はいつの間にか姿を消し、私は床で寝ていたことになっていた。まず、この家の形がおかしい。元々は長方形だった空間は円形になっていて、床は無数の目が生え私を監視している。肝心の壁はネズミを押し固めて造られたモノにすり替わっていた。これはいくらなんでも昔話より酷い。私は目を押しのけ、床に頭を押し付け、冷静になるように自己暗示をかけた。まずはこれが現実か?そんなハズない。じゃあコレは夢か?そうでもない。じゃあ一体これは何なんだ。最早科学や理屈で理解出来ない世界へ、私は飛び込んでしまったようだ。そうした困惑を予期したのか、例の乙女が私の方へ近づきながらこう問い掛けた。

「あたなはあらたしいかいせへびとこんだ?」
「うん」
「ちらこへきさない」
乙女は、日本語体系を失った崩れた言語で私にコミュニケーションを図った。しかし、不思議なことに私には理解出来た。なので乙女の言うとおり私は手を差し伸べた。すると乙女は一瞬にして量子レベルまで分解され、私に凝着した。前進に棘を刺されたような激痛が走る。私の体であるはずなのに、私のものでなくなってしまっていくような虚脱感が脳の中を電気信号として伝わっていく。乙女も電気信号で、私と会話を試みる。
「おめでとう、今日からあなたは私です」
その瞬間、私は私でなくなった。意識は残っているのだが、私の体は何処からかの無線で操作されている。もう私は、この体が何をするのかを死ぬまで延々と見続けることしか出来ないのだ。

「暗闇をもっと。奴らは蝕む害悪だ」
そう、私に告げたきり、乙女が話かけることは二度と無かった。

ーーーーーーーーーー

誰かがテレビを点けて、何も考えず涎をだらしなく垂らしながら眺めている。しかし、その日のニュース番組では、こんな事件の特集が流れた。

「狂気?屋敷に住む男が犯した大量殺戮!!」
その特集によると、その男は市街地を流れる川に沿って歩いた所の屋敷に住んでいるという。近所の人の証言によると、その男は何故か女言葉をしゃべり、髪の毛を緑に染めているようだ。そして、犯行の際涙を流しているのだという。その様子がこの地域に伝わる妖怪「のんか」にソックリということで、近所の人達は口を揃えて「市街地のんか」と呼んでいるのだとか。

この被疑者は、以前その辺りに住んでいたのだが、今現在まで行方が確認されていないという。


〈終〉
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久し振り~。
ブログ再開してたのには気が付かなかった。

  • 13/09/2010
  • とりび~ ♦-
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